「なにそれ?それまで誰もいなかったってこと?」
「いたけど、いなかった。みたいな」
「はぁ?」

俺はわっかんねーと油まみれのスープから箸をすくいだし、声を上げた。そうだ、いけない。忘れるところだった。
忙しなく鞄を探る手をぼやーっと見つめている優。俺はそんな彼の前に二段の弁当箱を差し出した。優はそれを指で刺しながら戸惑っている。

「から揚げ。母ちゃんから」

その言葉に、いそいそとゴムを取り除き蓋をあける。中には米も野菜も入っていない。から揚げオンリー。ちなみに1段目も同様だ。
母ちゃん、もう少しなんかなかったのか。ひねりとか……と不満たらたらの俺とは違い、優は大喜びで食べて良いのかときいてくる。

その喜びようと言ったら。犬だったらふりこ状の尻尾が見えそうなほど。

「いいよ、あい」

学食の割り箸を差し出すと優はうれしそうにから揚げを頬張る。
飯くらい、まともなもん食っとけとは思うものの、いざ自分が一人暮らしをしたときのことを考えるとこうなることは目に見えているのであえてなにも言わない。いや、言えない。