昼休みの学食は混雑していたけど、俺らの周りだけがぽっかりと空いている理由は、たぶんコイツの死んだ魚のような目と、半開きの口のせいだ、と俺は思う。

「ねぇ、ノリモノ」

死んだ魚、もとい岡田優は上半身を学食の真っ白な机にへばりつかせながらこちらを見てくる。友達……なはずなのに、そう思いたくないほど気味悪い。

「ノリヨシだっつーの。しっかりしろよ」
「しっかりできないよ。早く帰んないかな。真木綿のやつ寝させてくんないんだもん……」


ね さ せ て  く れ な い ?


その時、俺の脳内ではとてもお見せできない映像が流れた事は言うまでもない。ああ、やっぱり予想は当たっていたのか?まるで昼ドラじゃないか。
胸に広がったほろ苦くも甘酸っぱい言葉に胸をぎゅうっと押さえると、脳内劇場の真木綿さんが口元に指を添えて、ピンク色のカーテンをしめていく。

「ね、ちょっと。きいてる?ノリノリ」
「もう名詞ですらもなくなったな、俺」

せっかくこれからが良いところだったのに、とのびかけたラーメンに箸を突っ込んで椅子に深く腰をかける。優はわからないような顔をしてからまた一つため息を零した。

「イイトコロじゃないよ。真木綿だっていちお女の子なわけだし。気使うじゃん」
「気使うどころじゃねぇだろうよ」

お前らは夜、オトコとオンナになるわけだし!!

「そうだよ。どんな顔してればいいの」
「どんなって、ほらやっぱ恋人同士みたいにしとけよ。カワイソウじゃんか」

身体だけなんて真木綿さんが不憫すぎるしな。

「こ、恋人!?」

優は顔を赤らめ、思い切り席を立った。その勢いで後ろに倒れた椅子の音はツルツルの廊下をすべるように響き渡る。