そしてふと、夜の駅へ消えていったあの二人を思い出す。
若い男女がこれから一週間同じ屋根の下で暮らすわけで、そりゃあ、いろんな事も起こりうるわけで。優の家は一人暮らし、親もほとんど訪ねてこない。

だから、俺達は真木綿さんの発言に必要以上に驚いたわけで。このひと、そういう事わかってんのか?って。

それも恋人同士とかならまだしも、優も真木綿さんもそんな事は一言も言ってなかった。それに、真木綿さんは「優の何なのか」という質問に答えようとしなかった……。

もしかして、優には他に好きな人が居て。真木綿さんはそれを知っていながら一か八かの攻防に出たのかもしれない。


優をカラダ で オトス


「……えぇ?」
「あんたがえぇ?でしょ」

響く声に振り向くと久しぶりに見る綾美が俺をそれはそれは白い目で見ていた。

「何なの人んちの前で。それもえぇ?って」
「や、悪りぃ。これ渡しに来ただけ。うちの母ちゃんの筑前煮」
「えーマジで?わぁ、ありがとうって言っといて」

綾美の目は少し化粧をしていて、何だか変な感じがした。きっと綾美の化粧が下手なのではなくて、小さい頃から知っているとどうしても違和感を覚えてしまうものなのだろう。
俺からしたら、その輪郭をなぞる黒い線が余計なものにみえて仕方がないけど。

すると、通常の1,5倍になった綾美の目がぱっとこちらを向いた。

「どう、高校」
「え?まぁ。普通」

俺が言うと、綾美は「そう」とだけ言って俯いてしまった。もう少しひねった答えをするべきだったか?と考えているうちに綾美は顔を上げ、微笑む。

「じゃ、おやすみ」