「ヨシー」
「あ?なに?」

首にぶら下がる凛をおんぶしながら台所に向かうと母親が鶏のから揚げを揚げながら「これ、持ってってー」と菜ばしでタッパーをつついていた。

「今日鶏のから揚げかー優好きだよな。来れればよかったんだけど」
「え、優くん来るはずだったの!?もうちゃんと呼びなさいよー!」

何だかもう既に自称マダムキラーの餌食になっている母親にげんなりしながらタッパーの中身を確認してみる。中には筑前煮がぎっしり詰まっていて、俺は全てを悟った。

「綾美んち、持ってけばいいの?」
「そう。レンコンいっぱいもらったのよー。綾美ちゃん好きだからね」

綾美とは保育園からの幼馴染だったが、高校に入り別々になって。綾美が隣駅の女子高に進学してからは、そういえば一度も会っていないような気がする。幼馴染なんて一緒にいなければ消えていく繋がりなんだよなぁ。

「じゃあ、行ってくる」
「あ、ヨシ。このからあげ明日のお弁当にたくさん入れるから優くんにもあげてね」
「……はいはい」

タッパーを青のランチバックに入れ、家を出ると涼しい風がつむじを通り抜けた。