「ま、真木綿それはちょっといや、そら、え?」

身振り手振りで、その発言は結構とてつもない威力なんだぜ?と説明したいのか何なのか日本語が全くわからない外人のように必死のジェスチャーを試みる優。まぁ、残念ながら彼女が納得するような正当な理由は何一つ伝わってこなかった。

というか、優ってこんなに慌てられるのか。

「優おちついて。一週間ぐらいでいいから」
「期間の問題じゃなくて、その、ほら、荷物は!?」

確かに、彼女が持っているのは黒の小さなポシェットだけだった。
でかした俺!とでもいうようにぱっと目を見開いた優は調子を取り戻したように冷静に話し始める。

「だって荷物も持ってないじゃない?それに学校は?親にだって言ったの?そんな許すわけないじゃん。パパ、真木綿のこと溺愛だし」
「そうだよ、溺愛だから、それを逆手にとるんでしょ?というわけで、今の私一人暮らし」

口だけを吊り上げた真木綿さんを見て、また今までとは違う表情を見た気がした。このひとは妖怪百面相なのだろう。

のん気にそんな事を考えている俺の左隣で優の汗は止まらない。ここ、こんなに涼しいのに。