「真木綿……?」

俺の耳に遠い声が響く。優の耳から離れた携帯からの、小さな声が。

振り返ると線路を見ていたはずの真木綿さんが、真っ直ぐに優を見つめている。それ以来どちらとも話し出そうとしない雰囲気に一番困ってしまうのは当然ながら俺だった。


「あの、俺……」


遠慮がちに呟いた声は到着した電車から降りる人のノイズで掻き消される。

白線上に立っていた真木綿さんは白髪のサラリーマンやピンヒールを履いた女性にぶつかりながらも優から目を離さない。



そして電車は走り去っていった。