ふっと微笑むように目を細められたかと思うと、彼の顔はゆっくりと近付き、優しく唇が押しあてられる。

「最近、日中もずっと、髪括ってるよね」
 
相良くんは、私の結んだ髪の毛先を指ではじき、
「ふたりの時だけにしてよ」
と微笑む。
 
やっぱり、彼は軽いのかもしれない。
両手弾きに戻ったサティを聞きながら「なにそれ」とぼやき、私は赤くなってしまった顔を俯けた。
 
冬の旧音楽室には、淡い橙色の西日が差し込み、細い枝の重なりが、私たちに縞々でまだらな影を作っている。
部屋の空気が音楽に演出されたかのように色めき立ち、まるで映画の中みたいだ。