「ミユー!ちょっときて」
「…なにこれ?」

お母さんに渡されたのは、大きめの容器に入った夕飯のオカズ。

「今日コウくん家に一人みたいだから持ってってあげて」
「え?でも」

コウは今、彼女といる。

「多めに作ったから、どうせ余るの勿体ないでしょ?」
「…わかったよ」

あー。いやだな。
…あいつが彼女といるとこ見たくないのに。

渋々と家を出て、隣の家のチャイムを鳴らした。
…出てこない、出かけたのかな?
軽くドアを引くと、鍵が空いていた。

「…不用心だなぁ、まったく」

玄関に置いてすぐ帰ろう。
急いで中に入って、荷物を置いた。

…やっぱり、声掛けてから帰ろうかな。

階段を上がってコウの部屋のドアを開けた。

「コウ…」

っ…ー。

ベットに横になってる2人。
コウの腕に抱かれて、彼女さんは寝ていた。
そんな彼女の頭を撫でていたコウが、あたしに気づく。

「ごめん、動けなくて」

彼が小声で話すから、あたしも声を小さくした。

「えっと…オカズ持ってきたからよかったら食べて」
「おう。ありがとな」

それだけ言って、ドアを閉めた。
…やっぱり黙って帰ればよかった。
チャイム鳴らした時出てこないからじゃん。
…寝ている彼女を起こさないように動かなかった、コウの優しさ。
わざと大きな足音を立てて、階段を駆け下り家を出た。

「うわー。最悪」

さっきまで晴れていたのに外は大ぶりの雨。
…見送りぐらいしろ、ばか。
せっかく持っていってあげたのに。

…て、あれ。
やばい、なんか泣きそう。
この涙の理由を、あたしはまだ知らない。