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薄暗い部屋に響く時計が時を刻む音。どこか遠くから聞こえてくる消防車のサイレン。交通量が減った大通りを走る、数少ない車の走る音。そして……私の呼吸をする微かな音。

重たい体をゆっくりと動かし起き上がると、投げっぱなしの鞄からスマホのお知らせランプが光る。そっと手に取り確認すれば、電話が一件にメッセージが三通。

どれも私が望んでいた人からの連絡ではない。


「――はあ……」


スーツのジャケットをハンガーにかけ、帰ってきてから約2時間後にようやく着替え始める。職場のヘビースモーカー上司のせいで全身から煙草の匂いが漂う。髪にまで匂いが染み付いているのが分かる。

全く最悪だ。

イライラを全部投げつけられ、私の仕事以外のものまで押し付けられ――


付き合って2年目になろうとする彼氏から突然別れを告げられた。


日頃のイライラを、彼に投げつけてしまった私への罰と言った所だろうか。普段優しいはずの彼なのに、あんなに怒っている彼を見たのは初めてだった。とんでもないことをしてしまったのだと、その時知った私は……もう手遅れ。



『お前ここ最近重たい。こっちの気持ちも考えること出来ないの?――お前にはもう疲れた。さよなら』



そう言って離れて行く彼の背を追いかけることは出来なかった。追いかける権利をもう私は持っていなかった。