「あ、もうそろそろ時間なんじゃない」

「え、」

ほら、と指さされた先にはすけ始めている体。

「これは全部夢だったみたいだねぇ」

「向こうの俺にもよろしくって言っといて」


「あと、忘れた記憶なんて気にしないでまた新しい思い出作ったらいいじゃん」


「ま、程々に頑張りなよぉ」



そして、そのまま光に包まれた。









「ぁ…………、」

目が覚めた。
あれは夢だったんだ。

体を起こしてみれば、お兄ちゃんが椅子に座って眠っていた。
ここは、病院みたいだ。


「…ん……………、彩月っ!おはよう!」


「…お兄ちゃん」

「良かった、目が覚めないかと思った、良かった…」

聞くところによると、私は四日間眠っていたらしい。

主治医の話でも、相当症状が悪化しているようで。



「彩月っ!!良かった、大丈夫、どこも痛くない?」

知らせを聞きつけた、茉莉ちゃん達がその日の午後に来てくれた。

茉莉ちゃんを見て、夢のことを思い出す。



そっか、忘れられてない。



「…良かった、覚えてる………っ」

忘れるのは私だ。
でも、まだ覚えてる。
茉莉ちゃん達に辛い思いをさせてない。

「彩月ちゃん、泣いてる?」

「な、泣いてない…」

「あんたすごく涙出てんのに泣いてないって言えるのすごいよねぇ」

「こ、これは感動の涙だよ……っ」

そう、まだ覚えていた。
高校卒業するまでは覚えていたい。

お兄ちゃんも、嬉しそうに目を細めて、見守ってくれていた。

こんな優しい人達に、夢で味わった痛い思いをして欲しくない。