いつだっただろうか。
突然、あたしの家が没落したのは……。
確か、お父様が殺されて、お母様はその時には死んでいて。
あたししかいなくなって……。
女房は気づいたら
居なくなっていた。
あたしができることは
舞う事だけだった。
舞は女の武器になれるかもしれないから、
舞を覚えておけ。
いい婿を取るためには
歌がうまくなければならない。
そう言って、いろんな知識を
お父様は教えてくれた。
出家する道もあったのかもしれない。
でも、それは嫌だった。
人間でいたかった。
そのためには
自分を売るしかない。
ただ、売るのではなく、
舞う事の出来る。
歌うことのできる。
少し高嶺の花になる必要があった。
あの人ともう1度出逢うために。
わが身はもう散ったもの同然なのだ。
だから、ちょっとでも、
美しく散って
あわよくば、
花のように見えたほうがいいに決まっている。
そのためには舞うしかない。
そう思ったのが
白拍子になったきっかけだと思う。
あたしには
1人の想い人がいた。
そのままなら、
婚約者になるはずだった
将来有望な貴族の藤原 征人(ふじわらの ゆきひと)。
あたしたちは
姉弟のように育ち、
いつしか、男女の仲になっていた。
征人の元服の時、
本来なら結婚するはずだった。
しかし、
その時、お父様は倒れたのだった。
ちょうど、征人が元服を迎える年のことだった。
征人もあたしも
そのまま婚姻することを
望んでいた。
だけど、征人の父が
それを許さなかった。
親の後ろ盾のない
あたしには興味がないらしい。
興味があるとしたら、
あたしの家・京極家の
財産だけ。
だからだろうか。
気づいたら、
家を追い出されていた。
そして、そこに住み着いたのは
征人の父がとりまきだった右大臣家の
婿君と大君だった。
あたしは親だけじゃなく、
家をも失った。
そして、名前も
京極 咲子という名前さえも
失ってしまった。
咲くことない枯れたはずなのに
まだ美しくいようと
征人に会った時に
美しいあたしでいたいと
もがく姿は
枯れる寸前まで
美しい紅葉のようだ。
だから、いつの日か、
紅葉とよばれるようになっていた。
紅葉という名は
好きじゃない。
今でも、征人の声
咲子とよばれた日々
思い出してはなみだする。
もう、戻れないことも
わかってる。
萌えいづる 枯るるも同じ 野辺の草
いづれか秋に あはではつべき
まさのそんなかんじ。
あたしはもう
枯れたも同然。
栄華はもう来ない。
あたしは
誰かに体を奪われ、
その誰かに頼って生きるしかないんだ。
あたしは花を咲かせる前に
枯れた草。
花を見せたかった人との
身分は天と地の差に
なってしまった。
どんなに好きでも
交わることはない。
それが
紅葉なの。
時々、舞うの。
歌いながら、
哀しみを嘆くの。
でも、枯葉は枯葉。
わかってるけど、
今でも期待する自分がいる、
征人に会いたい…。
そう思う自分がいる。
そんな願いは残酷な時
かなった。
「お前が白拍子の紅葉御前か」
それは突然の出来事。
あたしは驚きを隠せない。
目の前の男は姿こそ、大人になったけれど、
藤原 征人その者。
征人はあたしを見ると
声にならない声を上げる。
「さ…き……こ……」
あぁ、懐かしい名で呼んでくる。
そうよ、あたしよ。
そう叫びたい。
けれど、場所がいけない。
白拍子が売られ買いする場所。
そこで征人と出逢ってしまった。
お互い、身分がバレてはいけない。
あたしの場合、前の身分だが。
何とも言えないキモチが
胸いっぱいに広がる。
征人に会えた喜び。
でも、なんで?
ここに征人はいるのだろうか。
聞くに聞けない。
あたしの身分は簡単に
身の上の人に話しかけてはいけない。