あたしは親だけじゃなく、
家をも失った。
そして、名前も
京極 咲子という名前さえも
失ってしまった。
咲くことない枯れたはずなのに
まだ美しくいようと
征人に会った時に
美しいあたしでいたいと
もがく姿は
枯れる寸前まで
美しい紅葉のようだ。
だから、いつの日か、
紅葉とよばれるようになっていた。
紅葉という名は
好きじゃない。
今でも、征人の声
咲子とよばれた日々
思い出してはなみだする。
もう、戻れないことも
わかってる。
萌えいづる 枯るるも同じ 野辺の草
いづれか秋に あはではつべき
まさのそんなかんじ。
あたしはもう
枯れたも同然。
栄華はもう来ない。
あたしは
誰かに体を奪われ、
その誰かに頼って生きるしかないんだ。
あたしは花を咲かせる前に
枯れた草。
花を見せたかった人との
身分は天と地の差に
なってしまった。
どんなに好きでも
交わることはない。
それが
紅葉なの。
時々、舞うの。
歌いながら、
哀しみを嘆くの。
でも、枯葉は枯葉。
わかってるけど、
今でも期待する自分がいる、
征人に会いたい…。
そう思う自分がいる。
そんな願いは残酷な時
かなった。
「お前が白拍子の紅葉御前か」
それは突然の出来事。
あたしは驚きを隠せない。
目の前の男は姿こそ、大人になったけれど、
藤原 征人その者。
征人はあたしを見ると
声にならない声を上げる。
「さ…き……こ……」
あぁ、懐かしい名で呼んでくる。
そうよ、あたしよ。
そう叫びたい。
けれど、場所がいけない。
白拍子が売られ買いする場所。
そこで征人と出逢ってしまった。
お互い、身分がバレてはいけない。
あたしの場合、前の身分だが。
何とも言えないキモチが
胸いっぱいに広がる。
征人に会えた喜び。
でも、なんで?
ここに征人はいるのだろうか。
聞くに聞けない。
あたしの身分は簡単に
身の上の人に話しかけてはいけない。
2人の間に流れる雰囲気は
前とは違う。
前なら、征人との
未来を思う明るい雰囲気だった。
もうそんなことありえない。
流れる雰囲気は
哀しみ。
それだけ。
あたしと征人の間には
壁がある。
みえないかべが…
あたしの心は
征人によって
支配される。
また、動き始める。
だけど、
この思いは罪だ。
もう望んではいけない
こひとゆふをもひ。(恋とゆう想い)
それは
征人への
長年の想いを
打ち消さなければいけない
あたしにとって
残酷なものでしかなかった。
征人は
このときにはわかっていたんだと思う。
あたしの行く末を。
いつのことだっただろうか.
俺の主である東宮が紅葉という
白拍子を捜せと言い出したのは。
東宮にとって、
紅葉という白拍子が
どんな存在なのか知らない。
ただ、探さないと
俺は咲子を迎えることは
出来ないと思っていた。
どんなに父親が
反対しても、
東宮に気に入られれば
咲子を迎えることできるのでは
そう思ったのだ。
京極 咲子。
俺の婚約者で
行方知らずの姫だ。
どこで何をしてるか
もうわからない。
だから、紅葉という
白拍子を捜しながら、
咲子を捜そうと思った。
そのために
たくさんの
白拍子が行きそうなところ
没落した姫が行くところ
探し回った。
そして、
紅葉を見つけた時には
もう遅かった。
紅葉は
咲子だったのだ。
俺はどうすればいいのか
わからなかった。
今すぐ、
咲子が欲しい。
ほしいけれど、
咲子は東宮の探し人で
もし、ここで咲子をさらったら
俺は都でも
日本という国のどこでも
生きれなくなる。
ほしい。
けれど、
咲子には
幸せに暮らしてほしい。
東宮に渡す?
そんなこと
したくない。
だけど、
咲子は
東宮といた方が
幸せじゃないのだろうか。
俺は幸せな咲子を
近くで見ることさえ
できればいい。
だから…