翌朝,眠いのに緊張で早朝から目が覚めて,アラームは結局必要なかった。

待ち合わせ場所から,和也君の家まではすぐで,心の準備をしている暇もない。

「ちょっと,和也君,緊張してきたんだけど,大丈夫かな」

「大丈夫っすよ。入ってください」

当たり前だけど,インターホンもならさず,和也君はドアを開ける。

手に汗握るとはこのことだ。心なしか息も苦しい。

「母さーん,連れてきたよー」

和也君が家の奥に向かって声をかける。

いよいよ緊張の瞬間だ。


「はいはーい」

奥から品のいいお母様が小走りで玄関に出迎えに来てくれた。

「お帰りなさい,って,あれ,先生?」

和也君,塾の先生ってことは言ってなかったんだね・・・

私はものすごい気まずさを感じた。

お母様は困惑して和也君を見ている。

「うん,彼女」

和也君は少し照れたように言う。

いや,そこ照れるところかもしれないけど,お母様が言いたいのは,そうじゃなくて!!!そうじゃなくて!!

「あ,あのお世話になっております,○○塾の木村です。」

あー,これじゃ塾のセールスだ。私は慌てて付け加える。

「和也君とお付き合いさせていただいています」

その場で頭を深々と下げる。

彼女としての印象に点数をつけるとしたら確実にマイナススタートなのだから,少しでも0に近づけるようにしなければいけない。

「あ,こちらこそ和也がお世話になりました。どうぞ上がってください」

お母様は明らかに動揺されていたが,とりあえず家に入れてくださった。