「すみません……」

「はい。って、き、君は……」


 心細そうな声のしたほうを向くと、そこには私服姿の倉本がいた。花を買いにくるのは慣れていないのか、店内をきょろきょろと見渡している。

 夏休み四日目は太陽を睨みつけたくなるほど暑いというのに、倉本は汗一つかいていない。麦わら帽子と白のワンピースはとても爽やかで、ここは避暑地なのかと錯覚するほどだ。


「あれ? もしかして、松波(まつなみ)くん?」

 彼女は僕のほうをみると、教室にいるときと全く同じ笑顔を向けた。
遠巻きにみていただけのその微笑みが、今初めて僕だけに向けられた。しかも、僕の顔と名前を覚えてくれていたなんて……。

 これはCランクの自分にとっては天地がひっくり返るほどに衝撃的なことで、すぐに返事が出てこなかった。


「うん、ここ、うちの親の店」

「へえ、そうなのね。おうちがお花屋さんだなんて、すごく素敵だね」

「うちは素敵じゃないよ。……ところで、何か用事?」