その間、ずっと彼は無言だった。

あたしは何だか不安になり、ぎゅっとその手を握ってみる。


「春也……?」

「ごめん、美加」

「え?」


「俺、守るっていったのに」


あのときと同じように、罪悪感にまみれた神代君の表情。

あの、霊感の話をしたときみたいに。


あたしの胸がずきんと痛んだ。


きっと、神代君は自分のせいであたしがこんな目にあったと思ってる。

それであたしに拒絶されないか、苦しんでいるように見える。


こんな怖い体験を、子供の頃から幾度となくしてきた彼だからこそ、不安になってしまう。


あたしが彼を嫌いになってしまわないか。



でも、あたしは。

怖い目には遭うし、嫌だとも思うけど。



「嫌いになんてならないよ、春也」



そう言って彼の手をもう一度握り返す。

言葉だけじゃなくて、もっと伝えられるように。


「嫌いになんかならない」


もう一度そう繰り返す。

俯いていた神代君の視線が、ゆっくりとあたしへと向けられた。



「たしかに怖い目には遭ったし、これからもきっとそうなんだろうけど」

「ごめん」

「謝らないで。あたし嬉しいんだよ」


「……?」


彼がきょとんとしている。

あたしは小さく笑みを零した。




「春也の見てきたのと、同じ視線で生きていけることが、嬉しい」




普通の人に見えないものが見える。

つながっているような気がして、嬉しい。


もちろん嬉しいだけでもないし、霊はどうしても怖いけど。


彼への言葉は本心だから。