あたり一面真っ暗な所であたしの体は立ち止まった。


見覚えのない場所。

こんなところさっきは通らなかった。


裏口の近く、とかかもしれない。


あたしの耳元でまた、さっきの声がした。


「……許さない、許せない……」


怨念のこもったような、低い女の声。

あたしは背中がぞっと栗毛立つのを感じた。


肩を、さっきのような冷たい感覚が襲う。


「いや……っ」


血だらけの女が、目を大きく見開いたおぞましい顔でこっちを見ている。


あたしはやっと自由になった身で逃げ惑う。

1人きりで、こんなどう考えても本物でしかない幽霊に襲われて……。


つい最近まで、こんなこととは無縁だったのに。


そんなことを考えているうちにも、女の手があたしへとゆっくり伸びてくる。

あたしはいよいよ恐怖心が極限までに達し、ぎゅっと目を閉じた。



「何してんだよ」



聞こえてきたのはあの憎たらしい声だった。

顔を上げると、レイが幼さの残る顔をこれ以上ないほどにしかめていた。


今はそれすらにほっとし、名前を呼ぶ。


「レイ!」

「はぁ……、こんなとこでハルとはぐれるなんてお前はバカか」


レイは呆れた顔をして、大袈裟なため息をついた。


子供にこんなことを言われるなんて!

大体はぐれたくてはぐれたんじゃないわよ!


さっきまで恐怖のあまりに滲んでいた涙が、レイの態度によって引っ込んだ。