【恐怖の廃病院】

というお化け屋敷の名前よろしく、中は緑色の非常灯と手術室の入り口の赤灯などで不気味な雰囲気をかもし出していた。


すたすたと歩いていく神代君。

あたしは必死に彼の服の裾を引っぱって歩いていた。


少し歩いたところで、彼が問う。


「こわい?」

「う、うん……」


暗くて表情は見えないけど、ふっと息が聞こえて、彼が微笑んでいるのがわかった。

なんだかあたしはほっとする。


彼の手があたしの手に重ねられた。

そのあたたかさに、ここがお化け屋敷だと言うことを忘れて安心しきってしまいそうになる。


怖いけど、大丈夫。


さっきの噂は嘘だったのか、今まで出てきたのは全てお化け役の人だとか人形とかで、不本意ながら免疫がついてしまったあたしにとってはあまり怖くなかった。

神代君が隣にいるし。


そんなあたしは少し気を抜きすぎていたのかもしれない。



出口まであと少しという所にさしかかった頃、あたしは一気に青ざめてしまった。


足が……、引っぱられている。


ひんやりとした感覚。

でもさすがにレイではないと思う。

神代君は気付いていない様子。


あたしは一刻も早く彼に告げようと、口を開こうとした。

そのとき。


「……許せない……」


掠れた声が耳元でする。

叫び声をあげようとした瞬間、あたしの体は勝手に動き出していた。


ななな、何コレ!


ばっと神代君の手を放し、あたしは来た道を引き返していく。


「美加?」


神代君の声が遠のいていく。

違うの! これはあたしの意思じゃなくて……!


声すら出せないまま、あたしは暗闇の中に1人消えていった。