周りを見回してみると、カップルだらけ。

女の子の方は口々に「やだこわーい」「絶対置いていかないでね?」なんて可愛らしく口走っている。


あたしはというと本当の恐怖で可愛さの欠片もなく縮こまってしまっていた。


だって、さっきから。

……入り口のところに何かいるんだもん!


病院を模した建物の入り口である、白いドアの隣に得体の知れない何かが蹲ってこっちを見ている。


周りの人達は皆気付いていない(ていうか見えてない)みたいで何も反応しないし、神代君だって慣れているのか何も反応しない。


やだやだ!

絶対あんなとこ入りたくない!



「春也……!」

「だめ」


ちゃんと名前で呼んだのに。

渾身のお願いなのに。


神代君は前を見据えたまま、あたしのお願いを聞き入れてくれるつもりはさらさらないらしい。


追い打ちをかけるように、前に並んでいるカップルの会話が耳に入ってきた。



「ここって本物出るって有名だよな」

「えぇーっ!?何それほんと!?」

「ああ。俺の弟の持ってる雑誌に載ってた」

「やめてよ怖いぃ~」



ちょっ……、ちょっと!

今の聞きましたか、ねえっ!


ぎょっとした目を神代君に向けると、神代君は小さく笑っていた。

口の端が少し持ち上がっている。


な、何考えてるの!?

まさか既に何かに取り憑かれてるの!?


あたしは顔面蒼白になりながら口をぱくぱくとさせる。

しかし無情にも、さっさと順番は回ってきて。


「次の方、どうぞー」


係員さんに促され、中に入ることを余儀なくされた。

あたしが涙目になりながら入り口を通るとき、ずっとそこにいた何かと目があった。


にやりと笑う大きな口。


ひっ!と小さく叫んで、神代君の服の裾をぎゅっと力強く握った。



もうやだ!

早く出たいっ!!