「ふ、二股なんてしないって言うか、してないけど…。日下部さんの事を考えると最近…心がザワザワする…」

慌てながら否定するが、日下部さんの下りはだんだんと小さい声になっていった。

綾美は一瞬、目を丸くした様にみえたけれど、優しく微笑んでカクテルを私に手渡す。

「はい、甘いカクテルだから、ゆかりも飲めるよ」

「ありがと…」

日下部さんへの気持ちに対する綾美からの返事はなかった。

綾美なりに私の微妙な気持ちを察してくれたのだと思う。

これ以上、詮索しないのも綾美の思いやりだ。

「二人はここに居たんですね」

「あ、高橋君。どうしたの?パシリ?」

二人でカクテルを飲んでいたら、後ろから高橋さんがトレーに沢山のグラスを持ってバーカウンターへと現れた。

「うちの部長達、飲みすぎですよ。通りかかる度に呼び止められて…。日下部さんまで混ざってるし…どうにかして下さい!!」

総務部の上司におまけの日下部さん、その組み合わせは高橋さんにとって最強らしく、断れずに弱気になっている様だ。

「焼酎のボトル貰えないか聞いてみたら?オジサン達に構ってたら自分が楽しめないから、ボトル置いてきて勝手にやれって言えばいいのに!」

対して綾美は強気な態度で高橋さんに上から目線で注意する。

「いや、それは…」
「高橋さんには出来ないんじゃないかな…。ほら、上司だし。綾美なら出来そうな気もするけど…」

私達はオドオドしていると、綾美が焼酎のボトル、氷の入ったアイスペール、水のペットボトルを手に入れてオジサン達(オジサンと言っても、うちの会社は比較的若い社員が多いから40代)の所に向かう。