女子社員の歓声が上がるが、私にはどうでも良かった。

「日下部さん、何で名前知ってるんですか?香坂君て、社長の息子なんですか?」

私はまくし立てる様に日下部さんに言い寄る。

「何も聞いてないのか?香坂は父親の名字で、花野井 有澄が本名だ。花野井一族の御曹司」

花野井一族の御曹司?

何にも考えずに付き合っていた。

先日の夕方に香坂君が社内に居たのも、同じ系列のカフェでバイトしていたのも、4月からは正式に社員になると言っていたのも・・・

今なら全て繋がる。

香坂君が社長の息子で"後継者"になるべき人だからだ。

日下部さんは何故知っていたの?

「日下部さんは何で香坂君の事を知ってるんですか?私、一度も名前を言ってませんよ?それに名字も違うし…」

「…さぁな?自分で調べてみたら?」

隣に座って居る男は、勝ち誇った様に笑う。

自分で調べるって、日下部さんの情報の入手先なんて一生かかっても探れない。

探ったら酷い目に会いそうだし・・・。

「社長の息子さんてどんな人なんだろう?会ってみたい」
「やっぱり、彼氏はハイスペックに限りますよね~」

香坂君の話によれば、4月からは正式に社員になるから来春になれば会えますよ。

ハイスペックに限るって、御曹司だから付き合った訳ではありません。

頭の中、お花畑の若くて可愛い女子社員には私はついていけません。

綾美の所に逃げよう────・・・・・・