もう今までみたいに話せないんじゃないかって思った。



我慢していた涙が目から溢れて頬を伝う。


視界が歪んだ。



教室を出て直ぐに後ろを振り返ったけど、自分が期待しているような事があるわけがない。



段々悲しみが増して、彼が出てくる前に早く帰ろうと思うのに足が動かなくなってくる。




やっぱ言わなきゃよかった。


ずっと、心の奥にしまっとけばよかった。



困らせちゃったな…。




「どうしたの?」

やっと一つの教室を超えたぐらいで、教室の後ろのドアから声がした。


二つ隣のクラスで、春馬の親友の大輝だ。


校舎には図書室ぐらいにしか生徒はいないと思ってたからビックリした。



「…べつに。」

泣いている顔を隠そうと、俯いて通り過ぎようとする。


さっきよりは普通に歩くことができた。



「…は?泣いてんじゃん。」

いつもより低い声。


彼は言葉より早く私の腕を無遠慮に掴んで、顔を覗き込んだ。



「泣いてない。」

彼に掴まれてない方の手で顔を覆う。



「泣いてる。」

その手も反対の手で掴まれた。


顔が一気に近づいて額がぶつかる。




「春馬のせい?」


真っ直ぐこっちを見つめて呟くようにそう言う。



その言葉に一層涙が溢れた。



「…ちがう。」

力ない言葉は正解と言っているようなものだった。


春馬のせいじゃない、私が勝手に傷ついてるだけ。



彼は両腕を離し、私を優しく抱きしめた。



今の私は、その優しさに縋り付きたくなってしまう。



「少しだけ、俺の話を聞いて。」