靴箱で靴と上履きを履き替えていたら蛯原さんが来た。


気づいてない振りをしてその場を去ろうとするが



「おはよ!」

ダメだった。


「はよ。」

流石に無視はできない。



挨拶を返してさっさと教室へ向かっていると蛯原さんは隣へと駆けてくる。


……マジか。



「最近暑くなってきたね。」

「うん。」

女子と話すのは苦手なんだって…。


教室に着くまでこのままか。



「文化祭の準備もそろそろ始まるね。楽しみ!」

「そうだな。」

そういえば毎年六月の後半ぐらいだったかな。


準備はまだだろうけど、何の企画をするかとかはそろそろ決めるはず。



「春馬くんはどんなのしたい?」

「…楽で楽しいやつ。」

「結局何やっても楽しいでしょ。具体例あげてよ。」

無難にお化け屋敷とかしたいけど、準備が大変そうだよな…。


どうせ他のクラスがするだろうし。



「んー、思いつかねぇわ。」

「そっかぁ。どうせだったら企画で一位取りたいよね。」

「まあ、せっかくやるならな。」

「頑張ろうね!」

「おう。」

教室に着いたと同時に会話は終わった。


隣の席なんだけどね。



蛯原さんは終始笑顔で俺に話し掛けてくれたけど、俺なんかと話して楽しいかな。



仲良くない人と話すと何喋っていいか分かんなくなるからあんま好きじゃないけど、蛯原さんはずっと喋ってくれる感じだし他の人よりは話しやすい。


隣の席だから気使ってんのかな。



「おはよ。」

荷物を下ろして乃々香の背中をツンと突く。


「おはよ!」

乃々香は振り向いて、いつもより頬が緩んだ笑顔で返すのだ。


何かいいことでもあったのかな。