夜、電話で愛梨に全てを話した。
「何その展開。え、大輝くんカッコよすぎるんだけど。」
それまで静かに聞いていた愛梨の高い声が電話越しに響く。
「だよね。」
乾かしたての髪の毛は毛先が少し濡れていて、肌に当たると冷たかった。
「乃々香はさ、それでいーの?」
「んー?」
「春馬くんの事、諦めるの?」
ベッドの上で伸ばしていた両足を抱えて座った。
手の平が半分隠れるくらいの上着の袖をギュッと握って足に顏を埋める。
「…諦める。諦めれるかは分かんないけど、好きって言ってくれた大輝と向き合いたい。その言葉を言うのにどれだけ勇気がいるかってのは、わかってるからさ。それで、大輝の事好きになって、ちゃんと付き合おうって思ってる。きっとそれが、一番良いと思うの。」
少し籠って、頼りない声が出た。
「そっか…。乃々香がそれでいいならいいけど。もし、大輝くんの事好きになれなかったら?」
「その時は…大輝に謝って、別れる。好きでもないのにずっと一緒にいるのは逆に悲しませてしまうと思う。」
「じゃあ、大輝くんの事好きになって、でも春馬くんの事も諦めれなくて好きなままだったら?」
それは、自分でも考えた一番嫌な展開だ。
「…それは、大輝に決まってるよ。」
でも、誰かを思ったまま付き合うのは悪いよなぁ…。
「なんで?」
「だって、大輝は私のこと好きって言ってくれてるけど、春馬はそうじゃないし。」
なんにしても、春馬は諦めよう。
思ってても、きっと傷ついて傷つけるだけだから。
「…もし春馬くんも好きだったら?」
躊躇いがちに小さな声で言った。
「………。」
そんなのあるわけないよ、って言おうとしたけど声がでない。
「ごめん、変なこと言った。忘れて。」
「ううん、いいよ。」
「…うん。」
「未来のことは分かんないけど、今は大輝の気持ちを大事にしたい。」
「うん…。なんかあったら、いつでも言ってな!」
「うん、ありがと。」
「じゃあ、おやすみ。」
「おやすみ。」
電話を切ったらそのまま倒れる。
胸の辺りがモヤモヤして痛い。
好きじゃない。
好きになんてなってない。
………まだ好き。
自分の気持ちが上手くコントロール出来ればいいのに。