「好き」
目線を逸らし、キュっと固く結んだ唇。
ほんのり頬を染めた彼女は、そんな言葉を俺に向けた。
普段表情に出るようなタイプではないが、これには戸惑いを隠さずにはいられなかった。
もう何年もの付き合いになる彼女、乃々香は、俺の一番仲の良い女友達で、いつもふざけ合っていた。
これはからかっているのだろうか。
女心が分かる程、俺は器用じゃない。
「お前、エイプリルフールは明日だぞ?」
思った事をそのまま伝えた。
エイプリルフールの嘘をフライングでもしてんのかと思って。
乃々香に背を向け、俺は帰る準備をする。
俺は乃々香の言葉を勝手にウソにした。
「……っ!」
返答がないから乃々香の方を見ると傷ついた顔をしていた。
それがホントだったと気づいた頃にはもう遅くて……。
「ばーか。あんたに1番に嘘ついてやろうと思って、フライングしてみた。ひっかかれよ。」
泣きそうな瞳を細め、引きつった唇。
無理に笑おうとするからだ。
余計泣きそうになった顔を隠すように反対を向いて、帰る準備をし出した肩は震えていた。
あー、マジかよ。
「私用事あるから先帰るね。じゃあ、バイバイ。」
一度もこっちを見る事なく教室から出て行った。
一緒に帰らねぇのかよ。
ちがう……帰れないのか、俺のせいで。
今は春休み中、乃々香に一緒に勉強しようと言われ、二人で学校に来た。
春休み中だけど図書室とかは空いてて、先生に頼んだら教室も開けてくれた。
外では多くの部活が行われていたが、特にうるさくはなかった。
普通に二人で勉強して、もうそろそろ帰るかってなって準備をしてたら…。
なんかもう、今までみたいに話せない気がしてその場に座り込んだ。
少し経って、やっぱ追いかけようと廊下へ出る。
そこで見た光景で俺は教室に戻った。
「…むかつく。」
無意識に言葉を吐いていた。
誰に対してか分からない言葉。
気づくのが遅かった。