城崎くんと別れた後。
わたしは急ぎ足で帰り道を歩いていた。
さっきから目の奥がジワジワと熱い。
わたし今、泣きそうなんだ……。
涙が零れ落ちてしまう前に、早く家に帰ってしまいたかった。
「日菜琉っ」
マンションの入り口に足をかけたところで、わたしは名前を呼ばれて反射的にそちらを振り返った。
……やっぱりこの声に呼ばれるとわたしの胸は、トクンと高鳴ってしまう。
「……善雅くん」
振り返った先に居たのは、校門前での別れ際に見た苦しそうな表情を浮かべた善雅くんの姿。
わたしが言われるべきことは一つ。
ここに戻ってくるまでの間に覚悟は決めて居た。
だから、躊躇いがちに言い淀んでいる善雅くんにわたしの方から話を切り出した。
「ヨリ戻すの?」
「っ!」
わたしの言葉を聞いた善雅くんはハッとしたように目を見開いた。
そのまま何も言わずに、善雅くんはそれなり視線を足元に落とした。
「城崎くんが教えてくれたよ。静葉さんの為に善雅くんが頑張ってたこととか、別れた後のことか……」
静葉さんを見返したくて、善雅くんが色んな人と関係を持っていたこと……。
それで善雅くんの傷は癒されたのかな。
そんなことをしたって、心は空っぽのままだよね……きっと。
でも、静葉さんが傍にいればもう大丈夫だ。
その為に善雅くんががんばってきたのが、ようやく報われるんだから……。
「これでもう善雅くんは、善雅くんが好きな一人だけと愛し合えるね」
わたしに出来るのは、それをただ願うこと。
アナタの傷が治って、心が一杯温かい気持ちで埋まってくれることだけだ。