それなのに
「いいよ、誕生日でしょ?今日はリツカのために何でもしてやるよ」
そう言って、指輪のついた手で私の頬を優しく撫でるおっさんに、嬉しくなるなんて私は末期なのかもしれない。
私の誕生日を知っていたというだけで舞い上がってしまう私はただの馬鹿なのかもしれない。
それでも、おっさんといられるなら馬鹿でもなんでもいいとさえ思う。
「すき、」
小さくこぼれたそれにおっさんはまた馬鹿にしたように笑う。
俺もだよ、と安いっぽい言葉を吐いたおっさんに腕を回せば、この世界にいるのは2人だけな気がした。
明日の朝に怯えながら、私はおっさんの腕から抜け出す術を知らない。知りたくもない。
おっさんの腕に抱かれながら、乾いた涙が頬を伝うのを感じた。