どうしたいかなんて、私に分かりっこない。



「リツカは、嫌な女になるね」

唇を離したおっさんが吐息まじりに呟いて、私の髪の毛を可笑しそうに乱す。

もう、なってるよ。
私は聞こえないふりをしておっさんの薬指に触れた。


「そういうとこ、好きだよ」

無言でおっさんを睨みつけるように見つめる私を笑うおっさんは、間違っても善人なんさじゃない。世間一般的に悪いやつだと思う。

薬指を隠すこともせずに平気で可愛いと愛でる、ただのクズだ。


それなのに、そんなおっさんが好きで好きでたまらない。


「おっさん、もう帰らないで」

朝になると温もりすらも残さずに去っていくおっさんを引き止める権利を私は持っていない。それでも今日だけでいいからここにいてほしいと思った。誕生日だしこれくらいいいんじゃないかって。

ほんの少しの希望にかけたのだ。

それでもおっさんがそんな優しい人間じゃないってわかっていたし、上手くはぐらかされて明日の朝には綺麗に跡形もなく消えているんだろう。