例えば、目の前で私が誕生日だということすら知らずに煙草を吸う25のおっさんに。
私にくれない愛を注ぐ薬指の指輪に視線を縫い付けることをやめられずに、私は求めた。
「ねえ、キスしてよ」
色っぽく私に視線を這わしたおっさんは吸いかけの煙草を灰皿に乱暴に押し付けて、有害な煙を静かに吐き出した。
私の小さな世界がおっさんの煙で埋まっていくのを安堵しながら、私は吸い寄せられるようにおっさんの肩に腕を回した。
名前も知らないのに、毎日一緒にいるなんて馬鹿みたいだろうか。毎日一緒にいたいなんて、馬鹿だろうか。私を愛してくれないその指輪すら求めているなんて、馬鹿だろうか。
「っ、ん…っ」
ほろ苦い味のするおっさんのキスは、不味くて、それでも何度もしたくなる。
キスする前だけ煙草吸わないでよ、なんて間違っても言えそうになかった。