「ホールケーキだから、ちゃんと友達連れてくんだぞ?おっさんはこれから花束でも買いに行くかねえ」
なんで、なんで、どうしてそんなこと言うの、ねえ、おっさん。
友達なんているわけない。まともに学校も行ってない私にそんなのいるわけがない。
学校へ行っても私にかかる声は私を歓迎するものではなくて、私を突き落とすものばかりだ。
ねえ、おっさんは知らないでしょう。
私よりも大事な人がいるおっさんには分からないでしょう。私には貴方しかいないということを。私にも他に誰かがいるって思ってるんでしょう。
だから、そうやって薬指の指輪を優しく見つめることが出来るんでしょう。
「ねえ、おっさん」
ケーキなんていらないから、
「キスしてよ」
愛してよ。
大丈夫、零れそうになった涙は全部なかったことにしてくれる。
おっさんの苦い煙草の味が、いつもよりも不味く感じた。