ミチル。
それは私の名前だが、
私は幼い頃から何かしら欠けているモノが好きだった。
満ちるであろうその部分がない。
そんな空間に儚さを感じ、心を動かされた。
そう。だから、私が何かしらカケル彼を好きになったのは必然的であるのかもしれない。
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私、荻野 みちる は今年の4月に高校に入学した。
私は、普段と変わらず、登校して
下駄箱で靴を履き替えていた。
だが、今日は決定的に普段と違うところがあった。
「翔(かける)~またケガしたの?
今日でプール最後なのにまた入れないよね?」
私が話しかけた彼は、私と同じクラスの
原田 翔 である。
彼はこの前も怪我をしたばかりで、
サッカー部に所属しているのだが、
なぜか腕に包帯を巻いている。
風紀が緩みがちなこの時期に
大きな怪我をしてしまったのは、
油断大敵であろう。
私も気を付けなくてはと思う一方、
今の私は小学生の頃から変わらない
あの高揚を感じている。
それは、明日が待ちに待った終業式で、
来る夏休みに胸を弾ませているということだ。
だが、それと同時にプールが終わってしまうのは
名残惜しいところでもある。
「あ~そうなんだよ。ホント、泳ぎたかった。」
私達は他の高校よりちょとだけ偏差値が高く、
地元では結構、有名な園盛(そのもり)学園に通っている。
そんなエリート高校生の会話とは思えない
幼稚さや未熟さがにじみ出た内容かもしれない。
だが、全力で取り組むというのは
勉強においても重要なことである。
「ホント残念。カケルの泳ぎ見たかったなぁ~。」
私はバカにしたような顔でニヤッと笑う。
こんなところも普通の高校生と
何ら変わりがないだろう。
「ふんっ、お前は文句なしに泳ぎ方が面白いよ。」
何よ“文句なし”って!
カケルはいっつも意地悪だ。
そんなことを思いながらいつもいつも心の中では
ホッコリとした気分になり、
頬がというより顔全体が熱くなる。
世間ではこれを胸きゅんと言うのだろう。
「カケル、″この″私をバカにしてるの?」
私は腰に手を当てて言った。
だが、カケルはピクリとも動かなかった。
「いや、お前の平泳ぎとクロールが犬かきに
見えるなんて全く思ってない。」
カケルは真顔で台詞を棒読みした。
「めっちゃ思っているよね?
もういいもん。カケルなんて知らない‼」
私はほっぺを膨らましてカケルから顔を反らした。
多分、こんな私を見てカケルは笑っていると思う。
細い目をさらに細く、三日月の形にさせて…
カケルの顔面偏差値は低い。
でも、私はカケルとこうやってふざけあっている
時間が好きだ。
多分カケルも同じように思っているんじゃないかな?
って期待してたりもする。
「でもさ…」
カケルが話し始めた。
私は再びカケルを見つめる。
「お前の背泳ぎめっちゃ綺麗だよ。」
今度はちゃんと心がこもっている。
たまにこういうふうに真面目になるカケル。
私はそんなカケルの言動に顔を赤く染める。
「ほら、お前さ手と足がムダに長いから。」
カケルはまた意地悪な顔で言った。
カケルの意地悪な顔もホントに好き。
「も、もう。ムダは余計よ…」
口ではそんなことを言って、少しずぼらに見せる。
その方が私の外見に見合い、
周りからの好感度が良いみたいだから。
カケルの言う通り、
私は小さい頃から1日の睡眠時間は
平均9時間なので、寝る子はよく育つのか
身長は168㎝ある。
でも、そんな高身長な女だからこそ
せめて振る舞いだけでも
可愛く見せたかったなぁ。
最も、その姿が周りに受け入れられるか
どうかは定かではないから
私はいつになっても踏み出せないのだ。
「よう、ネギ!」
カケルは目が細いからクラスメイトに
ネギと呼ばれている。
私には、その目も三日月のようで
愛嬌があるように見える。
「よう、森本。」
カケルはクラスメイトの森本君に声をかけて、
私をおいて、教室へ行ってしまった。
何か話題を振れば良かったかな?