「…ごめんなさい…」

俺は、椅子に座るお母さんに土下座をして謝った。

「…セラの…病気の事…ずっと黙ってて…」
「知ってたわ…」
「えっ!?」
俺は、顔を上げた。
「…松村先生に聞いてたのよ…私はセラが決めた事なら…黙ってみてあげる事しか…」
そう言ってセラのお母さんは両手で顔を隠した。
「…お母さん…」
俺は、セラのお母さんの手を握った。

(バンッ!!)
病室の扉が開き、険しい顔で直が言った。
「手術室に来てくれ!!」

俺は、暗く静かな長い廊下を走った。


手術室に入ると、緑色の布を掛けられたセラの隣に松村先生が立っていた。

「先生!セラは!?」

「…今、赤ちゃんを産んだところだよ」
そう言って先生は、優しく微笑んだ。
「……生まれた」
俺は、手術室の床に膝まついた。
(…ウンギャッ…)
俺の耳に新しい命の泣き声が微かに聞こえた……。

手術室の奥の扉が開いた。

「おめでとうございます女の子ですよ」
そう言って俺に、真っ白なタオルに包まれた赤ん坊を俺の腕に抱かせた。
「………」
俺は、大きく深呼吸して震える手で小さな命を抱いた。
タオルの中から小さな手が動いていた。