でも、まだ恋人と呼ばれる関係ではない。

キスはしているけれど、恋人じゃないなんて変な話だ。

部長は唇を離すと、私を見つめた。

「異動するかも知れないんだ」

部長はそう言って、私から離れた。

「…異動、ですか?」

呟くように、私は聞き返した。

「来年の春にだけど、W支社に異動になるかも知れないんだ」

部長が言った。

「そうなったら、南くんと離れることになる」

寂しそうに言った部長に、
「まだ、決まった訳じゃないですよね?」

私は聞き返した。

「上層部でちょっとしたゴタゴタが起こったみたいで、その問題が解決したらそうなるらしい」

「らしいって…」

「まだ決まった訳じゃないからね」

部長はそう言って笑った。