一刻も早く部長から離れたくて、部長から逃げたくてブラックコーヒーを喉に流し込んだ。

「ごちそうさまでした。

コーヒー、ありがとうございました」

普段から人と接するような対応で部長にお礼を言うと、缶をゴミ箱に捨てた。

背中を向けてその場から立ち去ろうとしたら、
「待って」

部長に呼び止められた。

「えっ…?」

振り返ってしまったのが、悪かった。

彼の端正な顔が近づいてきて、空いていた距離を縮められる。

あっ、マズい…。

「――ッ…」

気づいた時にはもう遅くて、私の唇は彼の唇と重なっていた。

油断した…。

あれほどと言っていいほどに気をつけていたはずなのに、油断した…。

私がそう思ったのと同時に、彼の唇が離れた。