「そんな風には思っていません。曖昧な態度をとったり、今まで散々鈍感だったりしたことは、申し訳ないと思ってます。でもそれは涼太にであって――」

言葉の途中で、涼太がスッと手を上げ、その甲を口に押し付けてくるから驚く。

何事かと見れば、涼太は女の子に視線を留めたままで……黙れってことなのかと判断する。
私が話すのを諦めると、手の甲から解放される。

涼太に視線を向けられたからか、女の子は少しバツが悪そうに目を伏せていた。

「今の、誰のために言ってんの?」という涼太の問いかけに、女の子は慌てた様子で口を開く。

「それはもちろん、向井さんのためを思って……」
「だとしたら、迷惑でしかねーんだけど。……まぁ、俺のためとか言いながら本当は自分のためなんだろうけど。〝振り向いてもらえない私可哀想〟とか思ってんだろ」

怖い顔つきでぴしゃりと言い放った涼太に、女の子がショックを受けたような顔つきになる。

当然だ。
好きな人にこんな風に言われたら、誰だってショックに決まってる。

せめて、怒るにしてももう少し優しい言い方を……とも思ったけれど。これは涼太と女の子だけの話だし、私が口を出すべきじゃないとぐっと言葉を我慢した。

きっと私がなにを言っても偽善にしかならない。

涼太がこの女の子に追い回されて迷惑そうにしていたのは知っているし、第三者の私がこの場だけを見て意見するべきじゃない。