入学して3日目
これからの高校生活についての説明など、HRのみの期間が終わり、今日から授業が始まる

1時間目は物理
おそらく教科担当であろう30代くらいの男性教師が教室に入ってきた
少し色黒で背は普通くらいだが、男の人にしてはほっそりしていて、寝癖のついた首元まで伸びる髪は、どこか頼りない雰囲気があった

今日から物理でこのクラスを担当する〝宮瀬文孝(みやせ ふみたか)〟です。隣のクラスの担任をしています。

クラスメイトは、教室に男子がいないからか宮瀬先生に興味津々
先生は早速質問攻めにあっていた
慣れているのか、先生は淡々と聞かれたことにのみ答えていく

先生歳はー?

36。

奥さんいるー?

うん。

子供はー?

いない。

何部の顧問ー?

陸上。

趣味はー?

走ること。

ずいぶん素っ気ない人だなと思いつつ、奥さんの尻に敷かれてそうなタイプだな〜とか、陸上部だから色黒なのか〜とか、走るのが好きってことは自分も陸上部だったのかな〜とか、ここは10組で最後のクラスだから、9組の担任か〜とか、どうでもいいことを考えていた

すると突然、「神谷玲(かみや れい)」と名前を呼ばれた
どうやら一人ひとりの名前を確認していたらしいが、ぼーっとしすぎて気が付かなかった

はっとして顔を上げると、宮瀬先生がこちらを見ていて驚いた
まともに見ていなくて気付かなかったが、宮瀬先生はまるで黒いビー玉のように綺麗な目をしていた
今にも吸い込まれそうな、真っ直ぐでくすみのない瞳に、思わず見とれていた

何も言わない私に、宮瀬先生はもう1度名前を呼んだ

神谷玲、あってるよな?

あ...はい。

ん、おっけい。じゃあ次、川住...


なんだろう、この不思議な感覚...
あの綺麗な瞳が、頭から離れない...

その後私は、1日中あの宮瀬先生のことが気になっていた
この感覚が何を意味するのか、私はまだ知らなかった
まだ、ただの子どもだった__________