俺に一切視線を向けてこない平沢は琴音に人工呼吸器が付けられたことでようやく肩の力を抜いたようだ。

「琴音、よく頑張ったな」

そう口にしながら琴音の頭を撫でた平沢は、父親の顔をしていてとても組の幹部とは思えないほど穏やかな顔をする。

そんな平沢の表情に思わず息を飲んでいた俺は、すぐに表情を切り替えた平沢に反応が遅れる。

「報告することがある。部屋を移す」

「ッ…あぁ。分かった」

すぐに立ち上がり部屋を出て行く平沢にさっきの面影はどこにもない。

一瞬琴音に視線を向けたものの、今俺にできることない。医者も琴音の診察を始めた。

なんとか視線を琴音から外し、既に小さくなりかけている平沢の背を追った。

平沢が向かったのは親父のいる離れだった。