それから、食べて、飲んで、2時間が過ぎた。
そんな時、私のケータイがなった。
「すいません、ちょっと電話出てきます。」
結構飲んだから、酔っ払いぎみだ。
席をたって、お店の外に出る。
「もしもし?」
(あ、俺…今何してんの?)
彼氏からの電話だった。
「歓迎会だよ~」
(は?誰の?)
あっ…異動になったの、言ってなかった…
「私、今日から社長秘書に異動になって、そこのお祝いだよ~」
(なに、俺と会う約束先にしてたのに、お前は酔ってんの?)
「うん!お酒いっぱい飲んでる~」
(ありえないんだけど、俺とのやくそく差し置いて、お前は楽しんでるんだ。もう、お前が分かんないわ…
1ヵ月くらいあってないのに、お前は平気なんだね…
おれはもう無理だから。)
「え?なにそれ、どういうこと?」
(俺と別れて。もう連絡しないから。じゃあ)
そう言われて、電話が切られた。
えっ、なんで?
飲み会来ちゃだめだったの?
放心状態のまま、みんなの所に戻る。
「おかえりぃー!
どうしたの?」
五月さんに聞かれて、よっぽど、泣きそうな顔してたんだろうなって思う。
「…ふぇ…うぅ…五月さん~」
お酒が入っているのもあって、優しく聞かれた私は、涙腺が崩壊した。
涙でなかなか喋れない私を五月さんはずっと背中をさすりながら泣き止むのを待ってくれていた。
それからは、やけ酒で、持っていたお酒をぐいっと一気飲みする。
「聞いてくらさいよぉ~…
さっき、彼氏に振られたんですぅ…
もう、あんなやつ大っ嫌いっ!!」
「えっ?芽衣ちゃんさっきってもしかして電話?」
「そぉれすよぉ…」
酔っていて、舌が回らない。
そのまま私は泣き疲れて寝てしまった。
その後に五月さんが社長に良かったじゃん!と言っているのを聞き逃していた。
朝、目が覚めると知らない場所にいた。
体が動かないと思って、後ろを振り向いてみると…
「き、きゃぁぁ…」
「ん…うるせぇ…」
なんと、社長に抱きつかれていた。
え?
なんで?
昨日飲み会で、彼氏から電話が来て、話している途中から記憶がない…。
「しゃ、社長…」
「ん…起きたのか?」
「はい。」
っ…じゃなくて!!
「私、なんでここに?ここはどこですか?」
「お前、飲んで潰れたんだろ…
覚えてないのか?」
「うぅ…すいません…」
そう言いながらも、カバンからケータイを出して開いてみる。
「はぁ…」
やっぱり、彼氏からの連絡はなかった。
「昨日振られたっていう、彼氏か?」
「やっぱり、連絡は無かったです…」
「泣きたい時は泣け…。」
社長のその言葉で、私はまた涙が出てくる。
「お前を振るようなやつなんか、放っておけ。
俺にしろよ…」
「ふぇ…え…?」
「だから、俺にしとけよ…」
今、社長なんて言った?
ビックリしすぎて、涙は引っ込んだ。
「まあ、考えとけよ。」
私は訳が分からなくなって、社長の部屋から逃げるように、家に帰った。
社長、本気なのかな…
今日は休みだったので、部屋にこもっていた。
社長と1晩一緒にいたことを考えて、赤面したり、振られたことを思い出して泣いたり、目がパンパンに腫れてしまった。
冷やしたりしたけど…
「え?芽衣ちゃん?」
五月さんが私の顔を見た途端、ビックリしていた。
やっぱり、隠せなかったか…
「気にしないでください…」
「いやいや、気にするでしょ…
翔也がなにかした?それとも、振られたの引きずってたの?」
五月さんには言えないよね…
五月さん、社長の事好きみたいだし…
「振られたの引きずってました…
でも、もう大丈夫です!」
「そう?ならいいけど…」
五月さんは優しいな…
私は、この時、自分が勘違いしている事に気がつけなかった。
そして、秘書になって2日目、昨日教えてもらった仕事をしている。
「芽衣ちゃん、これ、翔也に持って行って。」
五月さんがそう言って、書類の束を渡してきた。
「分かりました。」
私は、今途中だった仕事を中断して、書類を受け取る。
そして、社長室をノックして、入った。
「失礼します。」
目の前のデスクには社長が座っていたけど、パソコンに夢中で、私のことに気づいていない。
「社長…、しゃ、社長ー!」
「うわっ、びっくりした…」
普通に呼んでも気づいて貰えなかったので、結構大きい声を出して、呼んだ。
「これ、書類です。」
「あ、あぁ、ありがとう。」
社長はビックリしながらも、書類を受け取ってくれた。
「じゃあ、失礼しました。」
私は書類を渡したら、さっさと社長室をでた。
社長室を出ると、五月さんがニヤニヤしながら、私の方を見ていた。
「な、なんですか…?」
「翔也、機嫌悪かったでしょ〜。」
あれ?機嫌悪かったのかな?
「え、たぶん、普通でしたよ?」
「あ、そーなの?今日は仕事溜まってるから、集中してる所に声かけると、機嫌悪いはずなんだけど…」
どうやら、五月さんは機嫌の悪い社長と接するのが嫌で、私に行かせたらしい…
「なら、次から芽衣ちゃんに行ってもらおうっと!」
そして、何故か書類を届けるのは、私に決まってしまった…。