そのとき、廊下の向こうから綾香が歩いてくるのが見えたためだ。

 二人は目線さえもあわせず、すれ違った。

 ただ単に顔見知りの一人としての態度としては間違っていないだろう。

 じゃあ、あの写真は何だったんだろう。

 合成?

 そんなことを考えて、首を横に振った。


 浩介は見た目がそこそこなのに加えて、運動神経が抜群にいい。運動神経のよさと、明るい性格もあり、友人も多い。


 だからこそ、女子にもてるほうだと思うが、晴美がそこまでするだろうか。

 それに自分が目撃したといったのだから、嘘をついてもすぐにわかるはずだ。

 陥れようとしたなら、自分が見たとは言わないはずだ。

 友達がとか、はぐらかす方法はいくらでもある。

 あたしはすっきりとしない気持ちを抱えたまま、教室に戻ろうとした。

 だが、二歩ほど歩き出して、名前を呼ばれて、振り返った。

 そこに立っていたのは晴美だ。

「ごめんね。二人が話すのが見えて、つい。昨日、余計なことを言ってしまったかなって思ったの」

 あたしは苦笑いを浮かべると、前髪に触れた。

「そんなことないよ。今はどうしょうもできないかな。教えてくれたことは感謝しているよ」

「そっか。よかった。もう写真も削除しておくから、忘れてね」

「ちょっと待って」


 晴美は不思議そうにあたしを見た。

「うんん。何でもない」

 本当は写真を転送してほしかったが、その言葉を飲み込んだ。