「知らねえよ」


 田口浩介はスポーツ刈りにした髪の毛に触ると、不機嫌そうにあたしを睨んだ。

 証拠の写真は手元にない。写真を転送してもらうなどの手段はいくらでもあった。だが、彼氏の誠意を信じたかったのだ。何もなければ自分に言ってくれるはずだ、と。

 二人が一緒にいたと友人から聞いたが、その日、会っていたのかと聞いたのだ。

 その日、あたしたちはデートの約束をしていなかった。

 あたしと浩介は基本的に二週間に一度デートをしていて、その日はちょうど境目の日だった。
 あたしたちは友達との約束はそうした境目の日にいれるようにしていた。

「別の誰かと間違ったんじゃね? 何で俺があいつと一緒にいるんだよ。そもそも俺はお前と付き合っているんだけど」

「そうだよね。ごめんね」

 あたしはそう表面上は取り繕った。だが、一緒にいた写真がある。彼が素直に認めてくれればそれ以上は追及しないでおこうという気持ちもあった。否定したことで、あたしの彼に対する疑念は強くなってしまった。

「くだらないうわさに惑わされるなよ」

 彼はそう言い放つと、教室のほうに戻っていった。

 あたしはそんな彼の後姿を見守った。