「ごめんね。でも、どうしていいのか分からなくて」

「いいの。ごめん」

　あたしが動揺したのは浩介がすでに亡くなっていることだと思ったのだろう。

　あたしは慌てて否定した。

　綾香を見ると、彼女は青白い顔で唇をそっと噛んでいた。
　彼女は浩介のことを覚えているのではないか。

　そんな予感が脳裏を過ぎり、あたしは美由にことわり、綾香のところまで行った。

「昨日、浩介と一緒にいたよね」

　綾香ははっとしたような顔であたしを見た。

「あたしは、別に本気じゃなくて、ただの遊びで」

「あなたと浩介が何をしていたかは分かっているからどうでもいい。昨日、浩介と普通に別れたの？」

　綾香は首を横に振る。

「あなたから電話があって三十分くらい後に急に姿が消えたの。あたしは怖くなって、家に帰ったんだけど」

「浩介死んだんだって。一か月前にね」

「そんなことあるわけない。昨日も一緒にいたし、この前も」

　綾香は口をはっと抑える。

「そっか。でも、そういうことらしいよ」

　あたしはそれだけを言い残し、自分の席に戻ることにした。
　あたしが自分の寿命を盾に相手を消した結果がこれだったのだろうか。

　その翌日、綾香の存在が消えた。正確には浩介のなくなる三か月前に学校帰りに姿をくらませたとのことだった。