「ま、あいつのことはいいだろう」
「そうだね」

 二人の声が途切れる。そのかわりのように、布のこすれるような音が聞こえてきた。それに綾香の甘い吐息が混じる。

 あたし思わず電話を通話を切った。だが、頭の中でぐるぐると何かがうごめいていた。心臓が長距離を全速力で走ったかのようにばくばくと音を立てていた。

 今、浩介の部屋で二人で過ごしているのだろうか。

 確かめたい気持ちと、ごまかしたい気持ちが心の中でぐるぐるとうごめいた。

 あたしはぼんやりとした頭を抱え、家を出た。

 そして、浩介の家の前で足を止めた。

 浩介の部屋のカーテンは閉められていて、誰といるのか分からなかった。

 あたしは携帯をじっと見つめた。

 電話をかけたら、浩介がいるかいないかは分かる。

 覚悟を決めて、彼に電話をかけた。

 着信音が浩介の家から聞こえてきた。その音もすぐにやんだ。

 そして、浩介のめんどくさそうな声が聞こえてきた。

「何?」