「今……綺麗って」
「言った。八代目雲母以上の作だ」
どうやら女は八代目を知っていたようだ。話が通じて良かった。
否、良くなかった。
「恭吾さん!」
女が突然抱き付いた。
首に腕を回され、その重みで前屈みになる。
それはアッという間だった。
女が唇に口づけた……公衆の面前で……。
シーンと静まり返ったスタジオの中、シャッター音だけが響いていた。
「恭吾さん、大好きです」
一瞬だけ唇を離した女はそう言い、また、重ねる。
ーーやっぱり、この女の唇は美味い!
甘味を欲していた僕は、もう、周りの事などどうでもよくなった。
女の腰に腕を回し抱き締める。
ジワジワと湧き上がる温かいもの。僕はこの気持ちを知っている。
ゴマちゃんを思う気持ちだ。そして、あの少女に抱いていた気持ちだ。
そうだ、愛おしいという気持ちだ。
僕はどうやらこの女、遥香が好きみたいだ。
気持ちを自覚したからには伝えなければ……またいなくなってしまう前に……。
唇を離し、口を開きかけたところで、女に先を越される。
「恭吾さん……」