女は魔物、とはよく言ったものだ。
あの女も類に漏れずだった。
どうやら僕は魔物の魔術にかかってしまったようだ。
「矢崎課長、最近、人気が鰻登りのようね」
竜崎が携帯のメールを見せながら、「これも遥香ちゃんのお陰ね」としみじみ言う。
見るとそこには、『社内人気ランキング』と表され、白鳥が去ってから一位を維持してきた帝社長を抜き、一位となった僕の名前が記載されていた。
「でも、そのせいで、神崎さん、痩せましたよね」
「笑っちゃうわよね。浮気の心配で、らしいわよ」
「それはないですね。何せ矢崎課長ですからね」
君島、それはどういう意味だ。
で、誰がそんな事実無根の話を流しているのだ。
「心配するなら遥香ちゃんの方なのにね」
竜崎が僕の反応を確かめるように、チラッとこちらを見る。
フン、その手には乗らない。
「あっ、それ分かります。前も可愛かったけど、今は何と言うかセクシーキュートって言うか」
「女神の美しさだ、矢崎には勿体無い!」
突然、赤城が参戦してくる。
「でも、二人が並ぶとお雛様みたいと、広報が言っていましたよ」
本当、君島は赤城に容赦ない。完全スルーだ。
天然も、ここまでくると才能かもしれない。
「あっ、それ! 広報から三月号の表紙、貴方がただそうよ」
それはバーチャル広報誌『ミカド』のことか!
アレは社内の人間のみならず、アプリさえダウンロードしたら、誰でも見られるのだぞ。
サーッと血の気が失せる。
知らぬ間に、社内のベストカップルにされた上、生き恥を晒せというのか!
それもこれも皆、魔物のせいだ。
「お邪魔します」
出た! 本人の登場だ。
「恭吾さん、今日は大好物のフルーツサンドをお持ちしました」
だが、脇目も振らず僕に向かって来る女。それを悔しそうに見る赤城。こういうシチュエーションは悪く無い! ザマアミロだ。