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もし宜しければ
一緒に線香花火
しませんか
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ベランダに吊るされた風鈴の音で、
なんとか暑さをしのぎながら瞼を閉じる。
──ピコン。
けれど不意にスマホの通知が鳴って、
私の意識は早くも現実世界へと連れ戻された。
暗闇に慣れた目を擦りながら、
届いたメッセージを確認する。
──夏の終わりに訪れた、奇跡だと思った。
最後の線香花火が落ちた5秒後
私は君に、想いを告げる
「染谷くんっ、こんばんは…!」
急いで玄関を出ると、
見慣れない私服姿の染谷くんがいた。
いつもの制服じゃない姿に。
久しぶりに見る、染谷くんの姿に。
こんなにも胸が鳴るなんて本当に、
どうかしている。
「ぴっか、寝てた?ごめんな起こして」
自転車のスタンドを降ろしながら困ったように微笑む染谷くん。
ちょっとだけ息を切らしていて、もしかして急いで来てくれたのかなって胸がぎゅってなる。
「大丈夫だよ!こちらこそバイト終わりにごめんね。わざわざありがとう」
「や、急に線香花火しようなんて
なんかあったのかなって思って心配した」
…心配。してくれたんだ。
胸の奥が、いっきに甘くなるのを感じる。
「なんにもないよ!ほら、染谷くん花火したいって言ってたでしょう?どうかなぁ、って」
「言ったけど…なんで線香花火だけなの」
くすくすと笑いながら、私の右手にぶら下がったスーパーの袋を覗き込む染谷くん。
「普通手持ち花火じゃね」
「れいがね…!あ、れいって弟なんだけど、あの子いつも決まって線香花火だけやらずに残すからいっぱい余っちゃって」
「はは。なんだそれ」
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今から行く
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ついさっき届いた染谷くんからの返信。
──【宜しければ一緒に線香花火しませんか】
朝にメッセージを送ってから深夜になってもいっこうに返事がないので、もう無理かなと丁度諦めていた頃だった。
図々しかったかな、馴れ馴れしかったかな。
一歩踏み出した勇気が、後悔に染まりそうだった。
だから返事が来たときは本当に、
奇跡だと思っちゃったの。
あと一週間で夏休みが終わる。
夏の終わりの覚悟…とまではいかないけれど
ずっと好きだった染谷くんに、
告白しようって、決めたんだ。
「うげー。どんだけあるんだよ」
近くの公園に着いてスーパーの袋から線香花火を取り出すと、
染谷くんが物憂げな声をこぼした。
思いのほか量があって驚いたけれど、
勇気をチャージするぶんには丁度いいって、
思った。
「あ、ぴっか見て、結構きれいだ」
染谷くんの線香花火がじりじりと夏らしい音を立てて燃える。
染谷くんからこぼれ出た"綺麗"の単語がなんだか繊細に聞こえて、心臓がぶるりと震えた。
馬鹿だなって、思うよ。
「…うんっ。きれいだね」
染谷くんの隣にしゃがみ込む。
勿論、間隔はひと一人分。