「海外に住むって言われて撤去したはずの荷物が、海外に行かねえのにどこにあるんだって話だよ。
お前の荷物は珠王に置いてあった」
確かにその通りだ。
海外に住むというのが両親の嘘なら、当然わたしの荷物はまた別のところにあるわけで。まさか珠王で保管されてるとは思わなかったけど。
「とりあえず帰国したら、」
ぴたり。
何か言いかけた先輩が、いきなり動きを止める。
不自然なそれに目を瞬かせていたら、彼はポケットからスマホを取り出して耳に当てた。
どうやら電話がかかってきたらしい。
「ああ、一緒にいる。
……あ?ああ。わかった、伝えとく」
短くそう言っただけで、電話を終える先輩。
まさに必要最低限だけの会話。それを意味もなくじっと見つめていたわたしに気づいた彼は、「巧くいったみたいだな」と一言。
「珠王と八王子の揺さぶりに、政界側が応えた。
……バイオ計画は打ち切りだと」
「っ、」
「よかったな。……お前ももう解放された」
優しい表情で、微笑んでくれる先輩。
先輩のどことなく安堵したような表情を見る限り、心配してくれていたらしい。
「そういうわけだから。
とりあえず帰国して、いま荷物を置いてある俺の部屋に住めばいい。そのあとどうするかは、帰ってからゆっくり、な」
「……はい」
「……面倒な話は後にして、飯でも食いに行くか。
ルームサービスで済ませてもいいが、せっかく海外来てんだから外出たほうがいいだろ」