ほら、と、言葉でうながされる。
声だけじゃ意味が伝わらないせいで、仕方なくまだ火照っている顔を上げて先輩の方へ視線を向けてみれば。
「え、これって」
「合鍵」
「………」
おそらくキャリーケースから出していたのはこれだったんだろう。わたしに対して差し出されているのは、よくある形の家の鍵。
それはわかるけど……合鍵?
「まだ受かってもねえのに、一応大学の近くに部屋だけあるんだよ。
いくみが知らねえ間に勝手に出入りして、家具やら電化製品やら揃えやがったからもう住めるぞ」
ツッコミどころが多すぎる発言をするのはやめていただきたい。
先輩の志望校は王学からそんなに遠くない場所にあって、たしかバスで20分ほどだったはず。
「受かればそこに住むからな。一緒に住むか?」
「え」
「だってお前、帰るとこねえだろ」
ぽつっと。
落とされた一言に、あ……と気づく。
そうだ。
わたしが住んでいた頑丈なセキュリティのあの城は、政界の人間側から提供されていた家。つまり現在、日本に帰ったところでわたしの家はない。
「まあいくみが勝手に揃えたのは、
元からお前の家にあった荷物なんだけどな」
「……え? え!?」