「っ、」



両親がわたしに知らせないまま自殺しようとしてたなんて話も、当然信じられなくて戸惑って、怖かったけど。

それらすべてを知らずに生きてきた自分が、何よりも怖かった。



過酷な現状に在りながら。

まるでわたしだけが夢を見ていたみたいに。



たとえ両親がそう仕向けたんだとしても、

それがたまらなく怖かった。



「そんな話聞かされて平然としてろなんて言えねえよ。

……だから、お前の気が済むまでこうしてる」



椅子から立ち上がった先輩が。

ベッドに腰掛けたかと思うと、ぎゅうっと抱きしめてくれる。



好きと伝えたあの日と、同じそれ。

安心するぬくもりに涙は途中で止まったけれど、頭の中がぐちゃぐちゃで、何も考えたくなかった。




もし珠王や八王子が両親のことを引き止めてくれなかったら。

そんな最悪の場合のことまで考えて、何が正しいのかもわからなくなってしまう。



「いつみ、先輩……」



「ん?」



「あり、がとう、ございます……

わたしの両親のことを、引き止めてくれて」



たどたどしく言葉を紡げば、先輩はどこか訝しむように目を細めて。

それからわたしの髪にそっと指を通しながら、「俺じゃねえだろ」と静かに言葉を落とす。



「俺の親父が勝手にやったことだ。

失礼なことを承知で正直に言うなら、珠王の有能な研究員を手放したくなかっただけだろ」



「それでも、です」