その問いかけを予想していたみたいに、いつみ先輩がふっと口角を上げる。

……相変わらず綺麗な人だ。



思わずぼんやり見惚れてしまうくらい。

って、そうじゃなくて……!



「あ、ええと、とりあえず中どうぞ。

……っていうか、え?荷物少なくないですか?」



日本にいるときと何ら変わりないように見える先輩。

っていうかはっきり言うなら手ぶら。スマホと財布とパスポートオンリー。……ポケットに入れるなんて不用心すぎると思うんですけど。



「荷物なら預けてある。

朝方に着いて、午前中に仕事が入ってたんだよ。それ済ませんのに持ち歩いてたら邪魔だろ」



「ああ、なるほど……」



ちゃっかりこの人仕事してきたのか。

あれ? まさかわたしの迎えがついでなの?




「お前、両親からどう聞いてたんだ」



何はともあれ、先輩を部屋に通す。それからアメニティのコーヒーを、いそいそと用意して先輩に渡したあと。

冷蔵庫に入れてあったペットボトルのジュースを取り出して、ベッドに腰掛けた。ちなみに先輩が優雅に座っているのはキャスター付きの椅子だ。



「どう、って……

15年かけた研究のおかげで、間もなく"あれ"は完成するって言ってました。だから最後の思い出作りに、留学を取りやめて日本にもどったんです」



なんとなく。

兵器、と口に出すのは憚られた。でもその中身をもう知っているんだろう先輩は、コーヒーに口をつけてから、わたしと視線を合わせる。



「……完成なんかしねえけどな」



「え?」



「んな危険なもん、そう簡単に出来上がらねえよ。

まあ、お前の両親の場合は意図的に完成しないようにしてたのかもしれねえけど」