「いつみのこと、好き?」
いくみさんが聞きたかったこと。
それを受けて小さく笑みをこぼしたわたしは、かすれるような声で「好きですよ……」と返した。
その意味が恋愛感情であることは理解した上での、答えだ。
こんなにも胸が痛いのに、好き以外のなにものでもない。
視界の先では、はやくも1年生のリレーをしているらしい。
やっぱりスポーツ科が強いな、と半ば現実逃避のように思う。泣きすぎて頭がはたらかないのもあって、それくらいの現実逃避がちょうどよかった。
「好きだけど、付き合えない?」
「両親と……
何にも感化されない場所で、暮らすのが夢ですから」
そう思って生きてきたの。
わたしが"姫川 南々瀬"として生まれなかったら。そしたら、違った未来があったのに。
それでもわたしを選んでくれた両親のために。
それだけを夢見て、生きてきたから。
「前に理事長が言ってたと思うけど。
家族でここに残るっていう手段だってあるの」
「はい。……でも、いいんです。
ここにいる限り、両親は吹っ切れません」
幸か不幸か、手元には一生3人で暮らせる分のお金があった。
3人どころじゃない、もっとだ。
「これほど泣くくらい、つらいのに。
……いつみのことは、どうするの?」
優しい表情で。
いくみさんは、どこまでもいつみ先輩のお姉さんで。今日も腕にあるのは、可愛がっている大事な弟からの誕生日プレゼント。
その優しさを知っているから、先輩はいくみさんを大事に思ってる。
それを明瞭に理解出来るくらいには、彼のそばにいた。