「落ち着いた?」



やわらかな声色で尋ねられて、こくりと頷く。

グラウンドに設置された本部テントは横に並んで3つある。いちばん端が救護、真ん中が放送席、向こうの端が来賓席及び役員席。



当然ながら理事長やいつみ先輩は向こうの端。

そしてわたしは、いくみさんと一緒に救護席にいた。



先ほど理事長の挨拶ではじまった体育祭。

沈んだ顔をしているのは、おそらくわたしひとり。



「すみ、ません。迷惑かけて」



「いいのいいの。

夕帆から「南々瀬ちゃんが泣きやまない」って聞いた時はさすがにおどろいたけどね」



くすくす笑ういくみさん。

実はわたしが泣きじゃくっている間に、着替えと準備を終えたみんながもどってきていたらしいのだけれど。




わたしがなぜかリビングで号泣しているため、入るに入れず。

しかも泣きやまないから、夕帆先輩がリビングの外でいくみさんに連絡を入れ。



リビングに唐突に入ってきたいくみさんに慰められるようにして、みんなよりも先にグラウンドに訪れたわたし。

……本当にとんでもなく迷惑をかけた。



救護テントで保冷剤をもらって、ひりひりしている目元を冷やしているけれど。

それよりも胸の方が痛くて困る。



「……泣いてる原因は、いつみ?」



問われて、否定もせずにうなずく。

わたしのすべてを知ってるこの人になら、かくしごとをする必要もない。だから夕帆先輩がいくみさんを呼んでくれて、正直とても助かった。



「ほんとうはね。

姫ちゃんに聞きたいことがあったの」



それを聞いて思い出すのは、文化祭のあとの、夜中の話。

再度理事長がわたしに夏休み最初と同じ問いかけをしたとき、彼はいくみさんの名前を出して、そう言っていた。